03 World

日本の会社は地震を、アメリカの会社は
株主とお客さまの通り道を、心配している

日本の上場企業 3,766 社と、アメリカの上場企業 3,808 社の年次報告書の「事業のリスク」を、同じ 31 の種類で数えて、順位を並べました。

答え:日本の上場企業 3,766 社とアメリカの上場企業 3,808 社の「事業のリスク」の見出しを同じ種類で数えると、日米の順位の差がいちばん大きかったのは自然災害・感染症で、日本 2 位・アメリカ 19 位でした。アメリカの側では、株式と株主(アメリカ 4 位・日本 18 位)と、検索・SNS・広告・評判といった「お客さまの通り道」(アメリカ 10 位・日本 23 位)が上に来ました。

01会社は、何を心配していると書いているか

上場している会社は、毎年の報告書に「この先、会社に起こりうる悪いこと」を書く決まりがあります。日本では有価証券報告書の「事業等のリスク」、アメリカでは 10-K という報告書の「Item 1A. Risk Factors」です。会社は、心配ごとを一つずつ見出しにして並べます。

その見出しを、人手・金利・災害・競争・株主など 31 の種類に分けて、それぞれの種類を見出しに書いた会社が何社あるかを数えました。下の図は、日本とアメリカで、その順位を線で結んだものです。茶色の線はアメリカで 5 位以上高い種類、紺の線は日本で 5 位以上高い種類です。

日本 3,766 社の順位アメリカ 3,808 社の順位人件費の上昇・賃金 2929 人件費の上昇・賃金エネルギー・燃料 2828 エネルギー・燃料物流・配送 2727 物流・配送後継者・事業承継 3030 後継者・事業承継価格転嫁 3131 価格転嫁為替・海外・地政学 67 為替・海外・地政学景気・需要・人口減少 1011 景気・需要・人口減少法令・制度の変更 31 法令・制度の変更技術の変化・AI 2018 技術の変化・AI研究開発・新製品 2523 研究開発・新製品競争・価格の下落 85 競争・価格の下落気候変動・環境 1613 気候変動・環境M&A・新規事業 129 M&A・新規事業知的財産 1317 知的財産訴訟・不正・内部統制 73 訴訟・不正・内部統制信用リスク・貸し倒れ 2125 信用リスク・貸し倒れ情報セキュリティ・個人情報 16 情報セキュリティ・個人情報外部委託・外注・クラウド 2620 外部委託・外注・クラウド業績の変動・会計 148 業績の変動・会計原材料・仕入れ値 1724 原材料・仕入れ値システム障害・IT 1522 システム障害・IT特定の取引先・顧客 1926 特定の取引先・顧客供給網・操業の停止 2416 供給網・操業の停止金利・資金繰り 112 金利・資金繰り人材の確保・人手不足 414 人材の確保・人手不足特定の人物・経営陣 2212 特定の人物・経営陣品質・事故・衛生 515 品質・事故・衛生減損・在庫・資産の価値 921 減損・在庫・資産の価値集客の経路と評判 2310 集客の経路と評判株式と株主 184 株式と株主自然災害・感染症 219 自然災害・感染症
日本は EDINET の有価証券報告書(東証の 3,766 社)、アメリカは SEC の 10-K(3,808 社・多くは 2025 年度)の「事業のリスク」の見出しから数えた順位。

02日本の会社は、地震と人手を心配している

日本でいちばん多かったのは情報セキュリティ・個人情報(60.2 %)で、2 番目が自然災害・感染症(57.2 %)です。自然災害・感染症は、アメリカでは 19 位でした。日米の順位の差が、すべての種類の中でいちばん大きい種類です。日本は地震の多い国なので、工場や店が止まることを、多くの会社が書いています。

人材の確保・人手不足も、日本は 4 位、アメリカは 14 位です。働く年の人が減っていく日本では、人が集まらないことが、会社の心配ごとの上のほうに来ています。

03アメリカの会社は、株主とお客さまの通り道を心配している

アメリカの側で差がいちばん大きかったのは、株式と株主(株価が動くこと・配当・株が増えて一株の値打ちが薄まること・大株主のこと)で、アメリカは 4 位、日本は 18 位でした。次が、検索・SNS・広告・評判といった「集客の経路と評判」で、アメリカは 10 位、日本は 23 位です。特定の人物・経営陣(社長や役員がいなくなること)も、アメリカは 12 位、日本は 22 位でした。

「Google」という言葉を事業のリスクに書いたアメリカの会社は 284 社でした。業種で見ると、サービス業では 26.6 % の会社が書いていますが、製造業は 2.7 %、鉱業は 0.0 % です。お客さまが検索やアプリの店から来る会社ほど、Google の名前を出して心配しています(検索だけでなく、アプリを配る Google Play も含みます)。

Google の検索の上に出る AI の答え(AI Overviews)の名前を書いた会社は、6 社でした:YELP INC、TripAdvisor, Inc.、People Inc、Rocket Companies, Inc.、Onfolio Holdings, Inc、BuzzFeed, Inc.。多くは、検索やネットから来る人を相手にしている会社です。

AI と書いた会社Google と書いた会社製造(1,489 社)75.2%2.7%金融・保険・不動産(944 社)74.2%4.0%サービス(627 社)87.6%26.6%運輸・通信・電気ガス(251 社)77.7%5.6%小売(174 社)83.3%13.2%鉱業(139 社)61.2%0.0%卸売(71 社)80.3%2.8%建設(49 社)81.6%0.0%
アメリカの上場企業の業種(SIC の大きなくくり・40 社以上の業種)ごとの、事業のリスクに「AI」と「Google」と書いた会社の割合。
「Google」と書いた回数の多い会社Googlesearch engine
System1, Inc.(SST)28 回9 回
Grindr Inc.(GRND)26 回0 回
PubMatic, Inc.(PUBM)25 回0 回
YELP INC(YELP)23 回19 回
People Inc(PPLI)21 回17 回
CHEGG, INC(CHGG)19 回3 回
Duolingo, Inc.(DUOL)18 回0 回
Onfolio Holdings, Inc(ONFO)17 回6 回
TAKE TWO INTERACTIVE SOFTWARE INC(TTWO)16 回0 回
Snap Inc(SNAP)16 回2 回

04AI は、もう 4 社に 3 社が書いている

「AI」と事業のリスクに書いたアメリカの会社は 2,942 社で、全体の 77.3 % です。「生成 AI」と書いた会社も 1,218 社(32.0 %)ありました。関税(tariff)と書いた会社は 3,310 社(86.9 %)です。

一方で、順位の下のほう(物流・配送・エネルギー・燃料・人件費の上昇・賃金・後継者・事業承継・価格転嫁)は、日本とアメリカでまったく同じ順位でした。どちらの国でも、見出しに立てる会社が少ない心配ごとです。

05業種で見ると、形が違う(小売の日米)

順位ではなく、一つひとつの会社の見出しの配分(その会社のリスクの見出しのうち、どの軸に当たる見出しがどれだけあるか)を、31 の種類から 8 つの軸にまとめて、同じ業種の会社で平均しました。割合にすると、1 社あたりの見出しの数の違いは消えます。小売の会社(日本 321 社・アメリカ 173 社)で重ねると、アメリカは「法律・統治・株主」と「市場とお客さま」が大きく、日本は「災害と環境」と「海外と成長」が大きい形になりました。

10%20%30%40%人お金と会計もの・費用・品質市場とお客さま法律・統治・株主技術・情報・開発災害と環境海外と成長

━ 日本の小売の平均 ━ アメリカの小売の平均

軸(見出しのうちの割合)日本アメリカ
人5.5 %4.4 %
お金と会計13.5 %18.4 %
もの・費用・品質8.1 %8.8 %
市場とお客さま8.4 %16.4 %
法律・統治・株主12.0 %27.8 %
技術・情報・開発9.1 %7.7 %
災害と環境9.2 %5.4 %
海外と成長10.7 %7.8 %
一つの見出しが二つ以上の軸に当たることがあるので、足すと 100 % を超えます。どの種類にも当たらない見出しは入っていません。業種は、日本は東証 33 業種の小売業、アメリカは SIC の 5200〜5999。

ほかの業種と、一つひとつの会社をその業種の平均に重ねる画面は、準備しています。

06数の作り方と、気をつけること

  • アメリカ:SEC(米国証券取引委員会)の EDGAR に出ている 10-K のうち、取引所に上場している会社のいちばん新しいものから、「Item 1A. Risk Factors」の部分を取り出しました(3,808 社)。見出しは、太字・下線・斜体で書かれた一文です。
  • 日本:EDINET の有価証券報告書の「事業等のリスク」(東証の 3,766 社)。
  • 31 の種類は、日本語と英語のそれぞれの言葉で当てています。言葉が違うので、種類の分け方はおおよそです。「リスク管理体制」「Risks Related to …」のような、心配ごとではない区切りの行は数えていません。どの種類にも当たらない見出しが、日本で約 3 割、アメリカで約 3 割残っています。
  • アメリカの会社は、1 社あたりの見出しが約 52 件で、日本(約 14 件)よりずっと多いので、「見出しに書いた会社の割合」はアメリカのほうが高く出ます。この読みものでは、割合の高さではなく、種類の順位を比べました。
  • 会社が「事業のリスク」に書いたことは、その心配ごとが起きることを意味しません。会社のよい・わるいを示すものでもありません。投資の助言ではありません。

出典:U.S. Securities and Exchange Commission(SEC)EDGAR の Form 10-K、金融庁 EDINET の有価証券報告書を加工して作成。

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