01会社は、何を心配していると書いているか
上場している会社は、毎年の報告書に「この先、会社に起こりうる悪いこと」を書く決まりがあります。日本では有価証券報告書の「事業等のリスク」、アメリカでは 10-K という報告書の「Item 1A. Risk Factors」です。会社は、心配ごとを一つずつ見出しにして並べます。
その見出しを、人手・金利・災害・競争・株主など 31 の種類に分けて、それぞれの種類を見出しに書いた会社が何社あるかを数えました。下の図は、日本とアメリカで、その順位を線で結んだものです。茶色の線はアメリカで 5 位以上高い種類、紺の線は日本で 5 位以上高い種類です。
02日本の会社は、地震と人手を心配している
日本でいちばん多かったのは情報セキュリティ・個人情報(60.2 %)で、2 番目が自然災害・感染症(57.2 %)です。自然災害・感染症は、アメリカでは 19 位でした。日米の順位の差が、すべての種類の中でいちばん大きい種類です。日本は地震の多い国なので、工場や店が止まることを、多くの会社が書いています。
人材の確保・人手不足も、日本は 4 位、アメリカは 14 位です。働く年の人が減っていく日本では、人が集まらないことが、会社の心配ごとの上のほうに来ています。
03アメリカの会社は、株主とお客さまの通り道を心配している
アメリカの側で差がいちばん大きかったのは、株式と株主(株価が動くこと・配当・株が増えて一株の値打ちが薄まること・大株主のこと)で、アメリカは 4 位、日本は 18 位でした。次が、検索・SNS・広告・評判といった「集客の経路と評判」で、アメリカは 10 位、日本は 23 位です。特定の人物・経営陣(社長や役員がいなくなること)も、アメリカは 12 位、日本は 22 位でした。
「Google」という言葉を事業のリスクに書いたアメリカの会社は 284 社でした。業種で見ると、サービス業では 26.6 % の会社が書いていますが、製造業は 2.7 %、鉱業は 0.0 % です。お客さまが検索やアプリの店から来る会社ほど、Google の名前を出して心配しています(検索だけでなく、アプリを配る Google Play も含みます)。
Google の検索の上に出る AI の答え(AI Overviews)の名前を書いた会社は、6 社でした:YELP INC、TripAdvisor, Inc.、People Inc、Rocket Companies, Inc.、Onfolio Holdings, Inc、BuzzFeed, Inc.。多くは、検索やネットから来る人を相手にしている会社です。
| 「Google」と書いた回数の多い会社 | search engine | |
|---|---|---|
| System1, Inc.(SST) | 28 回 | 9 回 |
| Grindr Inc.(GRND) | 26 回 | 0 回 |
| PubMatic, Inc.(PUBM) | 25 回 | 0 回 |
| YELP INC(YELP) | 23 回 | 19 回 |
| People Inc(PPLI) | 21 回 | 17 回 |
| CHEGG, INC(CHGG) | 19 回 | 3 回 |
| Duolingo, Inc.(DUOL) | 18 回 | 0 回 |
| Onfolio Holdings, Inc(ONFO) | 17 回 | 6 回 |
| TAKE TWO INTERACTIVE SOFTWARE INC(TTWO) | 16 回 | 0 回 |
| Snap Inc(SNAP) | 16 回 | 2 回 |
04AI は、もう 4 社に 3 社が書いている
「AI」と事業のリスクに書いたアメリカの会社は 2,942 社で、全体の 77.3 % です。「生成 AI」と書いた会社も 1,218 社(32.0 %)ありました。関税(tariff)と書いた会社は 3,310 社(86.9 %)です。
一方で、順位の下のほう(物流・配送・エネルギー・燃料・人件費の上昇・賃金・後継者・事業承継・価格転嫁)は、日本とアメリカでまったく同じ順位でした。どちらの国でも、見出しに立てる会社が少ない心配ごとです。
05業種で見ると、形が違う(小売の日米)
順位ではなく、一つひとつの会社の見出しの配分(その会社のリスクの見出しのうち、どの軸に当たる見出しがどれだけあるか)を、31 の種類から 8 つの軸にまとめて、同じ業種の会社で平均しました。割合にすると、1 社あたりの見出しの数の違いは消えます。小売の会社(日本 321 社・アメリカ 173 社)で重ねると、アメリカは「法律・統治・株主」と「市場とお客さま」が大きく、日本は「災害と環境」と「海外と成長」が大きい形になりました。
━ 日本の小売の平均 ━ アメリカの小売の平均
| 軸(見出しのうちの割合) | 日本 | アメリカ |
|---|---|---|
| 人 | 5.5 % | 4.4 % |
| お金と会計 | 13.5 % | 18.4 % |
| もの・費用・品質 | 8.1 % | 8.8 % |
| 市場とお客さま | 8.4 % | 16.4 % |
| 法律・統治・株主 | 12.0 % | 27.8 % |
| 技術・情報・開発 | 9.1 % | 7.7 % |
| 災害と環境 | 9.2 % | 5.4 % |
| 海外と成長 | 10.7 % | 7.8 % |
ほかの業種と、一つひとつの会社をその業種の平均に重ねる画面は、準備しています。
06数の作り方と、気をつけること
- アメリカ:SEC(米国証券取引委員会)の EDGAR に出ている 10-K のうち、取引所に上場している会社のいちばん新しいものから、「Item 1A. Risk Factors」の部分を取り出しました(3,808 社)。見出しは、太字・下線・斜体で書かれた一文です。
- 日本:EDINET の有価証券報告書の「事業等のリスク」(東証の 3,766 社)。
- 31 の種類は、日本語と英語のそれぞれの言葉で当てています。言葉が違うので、種類の分け方はおおよそです。「リスク管理体制」「Risks Related to …」のような、心配ごとではない区切りの行は数えていません。どの種類にも当たらない見出しが、日本で約 3 割、アメリカで約 3 割残っています。
- アメリカの会社は、1 社あたりの見出しが約 52 件で、日本(約 14 件)よりずっと多いので、「見出しに書いた会社の割合」はアメリカのほうが高く出ます。この読みものでは、割合の高さではなく、種類の順位を比べました。
- 会社が「事業のリスク」に書いたことは、その心配ごとが起きることを意味しません。会社のよい・わるいを示すものでもありません。投資の助言ではありません。
出典:U.S. Securities and Exchange Commission(SEC)EDGAR の Form 10-K、金融庁 EDINET の有価証券報告書を加工して作成。
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